「静寂なリンチ」としての事故報告書

はじめに

私が勝手に命名しているだけなのですが、介護業界には「七不思議」があります。そのうちの一つに、「静寂なリンチとしての事故報告書」があります。

 

これは、介護職員に過失がなくとも利用者になにかしらの出来事が発生した場合(たとえば、転倒など)、介護職員が事故報告書というものを、その事故が発生した原因とその対策までを含めて、記入にしなければならないというものです。

 

この「静寂なリンチ」は一見したところ、「なんだよ。利用者が転倒とかしてたらそんなの当たり前だろ。介護士なんだろお前」と思われることもあるかもしれません。つまり、事故報告書の記入は「リンチ」に少しも該当していないのではないかと。

 

しかしですね、この作業って意外と精神的にくるんですよ。実際にやってみると。

 

というわけでこの記事では、事故報告書の記入が「静寂なリンチ」と言える3つの理由を紹介します。

 

「静寂なリンチ」といいうる3つの理由

1.事故の原因と対策を記入させられる

おそらく多くの場合、事故報告書には事故の原因と対策を記入する欄が設けられています。つまり、何らかの事故が発生した場合には、その欄を埋めなければならないわけです。

 

しかしです。利用者の転倒の例で考えてみると、介護職員が1人で数名(もしくは数十名)を一度に見守る必要がある介護現場では、利用者の転倒などふせぐことなどほぼ不可能なのです。それなのに事故の原因を記入させられるわけです。しかも対策まで。

 

たとえばですけど、職場で上司がミスをしたのに、部下である自分にすべての責任を押し付けられたみたいなことですよ。いやじゃありませんか、そんなことされたら。

 

2.利用者の家族に逐一電話をしなければならない(謝罪つきで)

さらにこの事故報告書、記入するだけで終わりではないのです。次に何が待ち構えているかというと、そう、家族への連絡(謝罪つきで)です。

 

職員側に責任がある(たとえば、落薬とか)場合に家族に連絡をするのは当たりまえだとも思うわけです。しかし、利用者が勝手に歩いていて転倒したというのに、職員が「謝罪つき」で家族に報告する必要があるというのはいかがなものでしょうね。

 

まあ、私にかぎった話ですが、多くの家族は利用者が転倒したと報告をすると「まあ、お忙しいのにわざわざ連絡をしてくださりありがとうございます」とおっしゃってくださるので、実際に怒鳴られるということはあまりないんですけれど。

 

ただそれにしても、ものすごく「悪いことをしてしまったなあ…」という罪悪感をおぼえてしまうのですよねえ。

 

3.1、2の理由により事故が発生した原因が全て自分にあると思ってしまう

最後に、事故報告書の記入が「静寂なリンチ」といいうる理由としてあげられるのが上記の1,2の理由により事故が発生した原因が全て自分にあると拡大妄想してしまうということです。

 

私も最初に事故報告書を記入した際に、この拡大妄想をしてしまい、その後のケアでミスを頻発してしまったことを鮮明におぼえています。今では、良いのか悪いのかわかりませんが慣れてしまってそのようなことはほぼほぼなくなってしまったのですが。

 

ちなみに、最近、事故報告書の記入でまさにこの件で同僚に相談されています。私は「他の職員はあなた(相談相手)のことを『あの事故を起こしたやつ』なんて思っていないですよ」とは言ったものの、相談相手は何か奥につっかえたものを残したような顔をしたままでその後の仕事をこなしていました。その相談相手がこのことをきっかけに辞めなければいいなあと切に願うばかりです。

 

おわりに

今回は事故報告書の記入が「静寂なリンチ」といいうる3つの理由を紹介しました。

 

個人的には、事故報告書の記入は次の仕事に悪影響を及ぼす可能性があるので、何らかの報告をする形式は維持するとしても、リンチをされたような後味の悪さを残さないような工夫が必要だと思います。

 

まあ、その具体的な方法はまだ思いついていないんですけどね。

 

今回はここらへんで終わりします。それでは。